大館樹海ドームへの旅(2003.12.6-7 大館)

他人には関係ないが、12月5日は我が社のボーナス支給日である。
業績不振であるため、とても大きな金額とはいえないが、それでもどこかに旅行に行くくらいはできそうである、というわけで、その直後の週末に開催される、大館樹海ドームでのマスターズリーグ観戦を軸に、温泉あり、ストーブ列車あり、競馬まであるという個人的にはきわめて贅沢なツアーを企画し、5日の夜仕事場から上野駅に直行した。

このごろは夜行バスの旅が多いが、まもなく35を迎える年のせいと、冬ということもあり、今回は贅沢をして久々に寝台特急に乗ることとした。私の子供時代はブルートレインが大人気を巻き起こし、私も早朝に三宮に写真を撮りに行ったことが何回もあるのだが、最近では夜行バスの台頭や飛行機の普及もあり、ブルートレインはやや精彩を欠くようになってきた。ただ私にとっては生まれて初めて目標みたいなものを立てたのが「ブルートレインに乗る」ということであったので(要はブルートレインに乗るために何かをがんばった、ということ)、かなり思い入れはある。

今回のあけぼの号には、ごろんとシートという、寝台と設備は同じでありながら布団や枕の類は一切ないという車両がある。それでいて寝台料金が0なので、全体の料金としてはだいたい夜行バスと同程度になる。また、カーテンはセットされているのでそれなりにプライバシーは保てるのも良い。私はビールとウーロン茶と弁当と崎陽軒のシュウマイと東スポ等々を購入し、列車に乗り込んだ。

この車両の唯一の欠点(私にとって)は、喫煙車であることであり、列車に入るや否やカーテンを閉めざるを得なかったのだが、それでもわずかな空間の中で本は読めるし、新聞で競馬予想もできるなどというのは、発車後すぐ消灯してしまう夜行バスでは体験できないことである。また、あまり眠ることはできないと思っていたのだが、やはり横になれるというのは大きく、隣の人のいびきに邪魔をされたものの予想以上に眠ることができ、気が付けばヤマサンの故郷である東能代駅であった。ここで下車して五能線に乗り換える。

能代といえば私のような阪急ファンにとってはヤマサン以外考えられないが、町としては「バスケットボールの町」で売り出したいようである。駅のホームにも、ヤマサンの銅像ではなくバスケットのゴールがあるのである。もっとも、なぜ能代がバスケットなのか(能代工業高校が強いのか?)、といわれてもぴんと来るものがない。

五能線は海沿いを走る趣のある路線である。ただこの日は曇り空ではあったが比較的穏やかな天気で、まさか翌日あんなことになろうとは、思いもよらぬところである。スポーツ新聞と海を見ながら、1時間程度列車に乗り、あきた白神駅で降りて駅前にある温泉「ハタハタ舘」にて一服することとする。おそらく方角から考えて朝よりも夕方に来て日本海に沈む夕日を見ながらの入浴がベストなのだろうが、まあ仕方ないところである。

とりあえず風呂に入ってリフレッシュし、次は快速「リゾートしらかみ号」に乗る。これは、いわば観光バスの列車版のようなもので、例えば景色のいいところでは思い切り徐行するし(観光客用に、時刻表に載らないダイヤで運行することもあるらしい)、車両の中にはボックス席(足がのばせる)があるし、あげく車内で津軽三味線の演奏まであるという、なかなか楽しい列車であった。また景色も、左に海右に山という、神戸に育った私にとっては非常に親近感を抱くようなものであり、堪能させていただいた。もっとも、海岸は岩だらけだし山は冠雪していたりで、神戸とは雰囲気は大いに異なったわけであるが。その列車を五所川原で降り、今度は津軽鉄道のストーブ列車に乗り換える。

津軽鉄道のストーブ列車といえば全国的に有名であり、会社としても夏でもストーブ列車を運転しているくらい、これを最大の売りにしている。というわけで2両編成の列車は、私と同様にリゾートしらかみ号から降りてきた客を含めた30人程の観光客と、数人の地元客という内訳であった。列車は、どう考えても私が生まれる前から走っている古い客車であり、ボックスのうち2箇所の座席を撤去してだるまストーブが置かれている。やはりストーブの前は暖かいので観光客が写真を撮りがてら集まってくるようだ。また網も置いてあって、するめを焼く姿も見受けられた。列車は時速20キロ程度でノロノロ動いており、この辺からも明らかに観光列車である。また、車掌は大忙しであった。ドアは客が勝手に開け閉めするので問題はないのだが、切符の販売と車内アナウンスという本来業務のほかに、ストーブに石炭をくべるのも彼の役割なのである。これは大変だ。
30分くらいで金木駅に到着。ここは太宰治の生家である「斜陽舘」がある、沿線隋一の町である。列車はまだ先まで運転するが、私は時間の関係でここで折り返し、今度は「走れメロス」号というディーゼル列車で折り返す。先ほどのストーブ列車の倍の速度であった。

五所川原から鈍行に乗り換え弘前に向かう。時間の関係でここまで食べ物を口に入れられなかったので、駅のそばを食べる。駅そばがこんなにうまいと思ったことはなかった。
弘前からは弘南鉄道という、これまたローカル私鉄に乗る。この列車は、東急のお古を使っているが、つり革の広告が「渋谷109」のままだったりするのである。この電車で、田舎館というところに向かう。
田舎館はいなかだてと読むのだが、なぜこんなところに行くのかというと、ここには「田舎館場外」があるのだ。早い話がJRAの馬券を売っているのである。もともとは岩手県競馬の「テレトラックつがる」という場外馬券売り場であったのが、JRAも同じ場所で売るようになった、というところである(推測)。駅から10分くらい歩いて着いたそこでは、1階ではJRA,2階では水沢競馬の馬券が売られていた。惜しむらくは、JRAの馬券が中山の後ろ3レースしか売られておらず阪神や中京のレースが買えなかったことと、中山競馬と水沢競馬の発走時刻が同じで両方の馬券を買えなかったことと、郷原というだけで切った馬が3着に来て万馬券を逃したこととである。まあ仕方ない。オケラになって駅までとぼとぼ歩くのはいつもといっしょである。

田舎館駅から黒石駅まで電車に乗り、そこからバスで1時間の温川温泉(ぬるかわ)が今日の宿である。バスは、当然のことながら私しか客がおらず、また真っ暗な道で雨も降ってきておりとても寒い。しかもやることがないので携帯でメールを打ったりしていたのだが、30分ほど行ったところで遂に「圏外」の文字が出て、そのままそれが消えることはなかった。本当にやることがなくなったので、ふと運転手さんの名前を見ると、「小笠原誠一」さんという、いかにもハムファンが喜びそうな名前であった。
そんなどうでもいいネタはともかく、ようやく19時前に宿である「温川山荘」に到着したのであった。

温川温泉には、昔は何軒か宿があったようだが、今では温川山荘一軒しかない。携帯も使えないところであるが、それでも私を含めて5組くらいが宿泊しているようである。早速山菜を中心とした夕食を満喫し、屋内のヒノキ風呂に入り十分体を温める。その後部屋でしばらくくつろいで混浴露天風呂に入る。あいにく相客はいなかったが、とてつもなく寒くしかも大雨の中で入る露天風呂はばかばかしいが格別である。驚いたのは部屋に戻り窓の外で声がするので見てみると、さっきの露天風呂が丸見えであったことである。しかも最初は男の声しかしなかったが、女の声も聞こえてくるのだ。窓の外を眺めようと思ったが、多分向こうからも丸見えだろうから、やめておいた。今では悔いが残るのだが。
結局NHKと日テレ系しか写らないテレビでサタデースポーツを見ながら眠ってしまった。

翌朝は6時過ぎに目がさめると、外は大雪であった。天気予報は確かに大荒れであったのだが、それにしても前日の雨から変わりようにはびっくりである。そんな中、早速露天風呂に入浴、昨夜より更に寒く雪ではあるが、朝なので景色も見えるし、やはり格別である。1年に1回くらいはこういうことも必要であるということを痛感した。

朝飯を食べ、昨日と同じ小笠原氏のバスに揺られ、弘南鉄道を乗り継ぎ、更に弘前からJRの特急に乗り継いで大館駅に到着した。青森県内は大雪であったが、秋田県内は雪は降っておらず、この時点でもまさか最後にあのような事態になろうとは、思いもよらぬところである。

大館駅で駅弁を購入し、いよいよ樹海ドームに乗り込む。樹海ドームは、秋田杉を使った、世界最大の木造ドームである。そもそも野球ができる建物であるというだけでもすごいのだが、タクシーの運転手曰く、結構色んなイベントが開かれているようである。
いよいよドーム内に一歩足を踏み入れる。秋田杉のいい香りが・・・しなかった。あたり前か。しなしながら、コンコースには、秋田県が生んだ選手の展示があり、われらがヤマサン(の阪急時代のユニフォーム等)は言うまでもないが、オレ(落合)を差し置いて、ヤマチャンズの主戦捕手である中嶋聡の(青波時代の)ユニフォームが飾られていた。来年は鎌ヶ谷ファイターズで暴れて欲しいところで、まだまだ札幌アンビシャスの一員としてここを訪れるわけにはいかない。
試合の方は札幌が地元出身高山の好投があったものの打線が肝心なところで打てず、東京ドリームスが芦沢や鮎川といった控え選手が活躍するなどいつもの試合巧者ぶりを発揮、芦沢にはホームランまで出て結局東京が7対1で勝利を収めた。札幌期待の星野は相変わらずの投球ではあったが暴投もあり2失点、その他阪急勢では藤城がいたのみであった。いつも東京ドームで野球を見ている身にとっては、樹海ドームはたしかに規模は小さい。しかし、今日のような寒い気候の中で、野球ができるというのはすごいということを実感し、人見知りの激しい私としては珍しく、思わずタクシーの運転手にもそんな話をしてしまったほどだ。

試合後外に出ると猛吹雪。立っているのもつらい状況であったが何とかタクシーを呼び大館駅に向かった。駅でタクシーを降りると前のタクシーから見たことのある長身の男が降り立った。それは、星野伸之であった。彼は、多分大阪に帰るのであろうが、窓口で切符を購入し、改札口で一人で並んでいた。実は私は、東京ドリームスや札幌アンビシャスの選手のカードをほとんど家に忘れてきていたのだが、運良く星野のカードがあったので、思い切って声を掛けてサインをいただいたのである。先般大阪で村上眞一氏にサインをいただいたときは会話までしてしまったが、あまりの意外さに緊張してしまい、特に話もできなかった。その後王子様は一般大衆に混じって秋田行きの鈍行に乗り込んでいったのであった。

大館からバスで空港に向かう。雪もそれほどではなくなっていたが、我々が乗るべき飛行機は大館に降りることができないらしい。とりあえずチェックインだけして待っていたが、飛行機の方は30分ほど上空を旋回した後、結局秋田空港に行くことになってしまった。甚だ遺憾である。明日ちゃんと会社に行くためには、秋田空港までタクシーを飛ばして最終便に乗るか、夜行バスか列車で帰るかしかなくなり、結局行きと同じあけぼの号で帰ることになった。一見最悪の結末ではあるが、大館能代空港の最寄駅が中嶋の故郷である鷹ノ巣であったため、そこに立ち寄ることができたことと、あけぼのの個室寝台が行きのごろんとシートに比べ寝台料金分を加えても遥に居住性が良く快適な夜を満喫できたこと、さらにスーツを持ってきていたので上野駅から会社に直行できたことなど、なんだかんだで自分の悪運の強さを更に痛感してしまった次第である。

翌朝は会社近くのサウナで入浴したあと出社、何とか仕事を無事こなすことができ、何よりであった。

日程
@ 12/5(金) 上野21:41【特急あけぼの ゴロンとシート 車中泊】
A 12/6(土) 7:50東能代7:58(普通)8:47あきた白神【入浴】9:58【リゾートしらかみ1号】12:04五所川原12:10【ストーブ列車】12:39金木12:40(普通)13:01五所川原13:10(普通)13:57弘前14:30(弘南鉄道)14:54田舎館【ウインズ田舎館】田舎館16:24(弘南鉄道)16:29黒石17:45(バス)温川温泉 泊
B 12/7(日) 温川温泉(バス)9:45黒石9:50(弘南鉄道)10:19弘前10:28(特急かもしか2号)11:03大館【樹海ドーム マスターズリーグ観戦】大館16:00(バス)大館能代空港18:00(ANA)19:10羽田 のはずが、大館能代空港からバスで鷹ノ巣に向かい、19:44【特急あけぼの B寝台個室 車中泊】6:58上野

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