北欧野球事情視察(ペサパッロ)(2009.8)


今年の夏休みは、昨年に引き続き欧州。しかし目的地は昨年より更に北にあるフィンランドとスウェーデンである。
実はこの2カ国、プロと呼べるかどうかは分からないがれっきとした野球リーグが存在する。

フィンランドには、5球団で構成されるリーグがあるが、星取表を見るとチーム間でかなり実力差がありそう。何せ勝率9割のチームが1つ、7割5分のチームが1つ、5割のチームが1つと、残り2チームは1割台という塩梅。我々が行く日程でも、実は3試合制での2位球団対3位球団の準プレーオフ?の第3戦が開催される予定であったが、準プレーオフで2位チームが3位チームに大差であっさり連勝してしまい、観戦予定は惜しくもパーになってしまう悲劇が起こってしまっていたのだ。
(勝敗表はこれ

一方スウェーデンには、いくつかのレベルのリーグがありそう。最高級のリーグは、6球団で構成されているが、残念ながらこちらもリーグ戦が終わってプレーオフまでの休戦期間。もっとも、試合のほとんどが土日であること、ホームページには練習予定まで入っているもののそれが平日の夜だったりで、本格的に野球を生業とする人たちのリーグではなさそうである。
(勝敗表はこれ

今回は、当然、野球観戦が主目的の旅ではなかったが、昨年もイタリアで野球観戦をした我々としては、ここで引き下がるわけにはいかない。そこでいろいろ調べたところ、フィンランドには、フィンランド式野球というべき『ペサパッロPesapallo』というスポーツが存在することが分かった。男女別にリーグ戦も盛んに行われているようであり、試合日程もこちらの旅程に合いそうなので、観戦してみることとする。
(リーグのHPはこちら

まず、ペサパッロについてであるが、先ほどペサパッロはフィンランド式野球と書いたが、実際には野球っぽいが野球とは異なるスポーツと考えたほうがいい。我々もウィキペディアに書いてあったものをコピーして持参し、観戦に備えたが、例えば(日本で言うところの)野球の投手については、
・ホームベース付近にいる。打者の左右打ちにより立ち位置が異なる。
・トスバッティングのトスを上げるような投球。但し頭上1メートル以上の高さまで上げなければならない。
・打者が打った後はどちらかといえばホームベースを守る役目。
等であり、我々が思う『野球』と同じなのは、ボールをバットで打つこと、ランナーが1,2,3塁を回ってホームに戻ってくれば点数となること、表と裏があることくらいである。


さて、我々は現地時間8月16日の夕刻、といっても日はまだ高いが、フィンランドの首都ヘルシンキから電車で1時間半ほどのKouvolaの街に降り立ち、個人経営の鉄道模型館?に立ち寄ったあと、徒歩10分くらいのKSS Energia Areena という会場に向かったのであった。

入り口で12ユーロを支払いスタジアムに足を踏み入れると、陸上競技場の出来そこないのようなグランドが広がっている。陸上競技場の向かって右側部分(いわゆる1,2コーナー)にホームベースが置かれ、3,4コーナー方向が外野。ホームストレッチには屋根付きスタンドがあってほぼ満席、その他1,2コーナー部分にも仮設スタンドがあり、バックストレッチ部分にも客がいる。あわせてざっと2千人程度と、予想よりお客さんが入っている。

試合開始まで若干時間があったので場内を散歩する。ホットドッグやアルコールを含めた飲み物を売る売店がいくつかあったが、バックストレッチ奥に建物があり、何かと思っていたらなんとアイスリンクであった。またその傍らにはペサパッロ球団の帽子やユニフォームを売る売店もあったが、ここのグッズを買っても日本ではだれにも理解されないのでさすがに買うのはためらった。

そうこうしているうちに地元Kouvolan Pallonlyojat対Oulun Lippoの試合が開始された。今日は7戦制プレーオフの第5戦、たぶん。

最初のうちはルールがさっぱり理解できず、地元チームのファンの歓声のあがりどころも良く分からなかったが、自分なりに何とか理解し、日本の野球と大きく異なるという意味でのポイントとしては、

・バッターの3ストライク制は同じだが、いわゆる日本的ファウルだけでなく、2ストライク目まではフライやゴロについてもファウル扱い。例えば2球目にバントみたいなゴロを打ち、本人は1塁に走らずランナーを進めるだけ、ということでも良い。
・3アウトで攻守交代となるが、『アウト』というのが三振(2ストライク後の日本的ファウルも含む)、ゴロを打った時のフォースアウトくらいであり、基本的にフライはアウトにはならない。したがって、2ストライク後についてはバッターはフェア地域にフライを打つような打撃をする(フライを取られたらアウトではなく、次打者と交代するのみ)。

といったことかと感じた。

それでも試合中に「1,2,3塁全てにランナーがいる局面ではフライを打ってランナーもすべて引き上げになったのにバッターがガッツポーズで喜んでいる」というシーンがあって、こればかりは何で喜んでいるのかとかなり不思議に思ったが、後でこちら(札幌ペサパッロ協会というところがあるらしい)で調べると、「フライを取られた場合には塁上のランナーを消すことができる」というルールがあり、例えば3塁ランナーの足が速くない場合にはわざとフライを打ちあげてランナーを引っ込めることができるのである(ランナーを残すとフォースプレーでホームでアウトになる確率が高くなる為)。これはルールの結構肝の部分のようである。うーん、奥が深い。

試合は前後半4イニング制。前半・後半で得点の多いチームに1ポイント入り、前後半でポイントを挙げたチームが同じ場合は2対0で勝利、異なる場合は1イニングの延長戦に入り、それでも決着がつかない場合はサドンデスとなる。

前半は地元kouvolaが優勢に試合を進め、9対0でまず1ポイント獲得。そのkouvolaの中で場内アナウンスで妙に耳に残った『Juho Hacklin(ユーホー・ハックリン)』選手(背番号8 三塁手兼外野手)を本日の熱烈応援選手に勝手に決めて後半を迎える。

しかし後半はkouvolaがチャンスは多いがなかなか点が取れない。ペサパッロでは、いわゆる指名打者のような攻撃専門選手を3人抱えることができるのだが、ハックリンは打撃がイマイチなのか、打順が回っても常に指名打者と取って代わられ、打撃では出番がなくなってしまっていた。

最終回になり、2点を追う展開の中でようやくハックリンの出番。一部の日本人のファンが地元ファンより過激に応援する中、彼は見事に2ベースを放ち、追い上げに貢献してくれたのであった。さすが、我々が目を付けた選手だとしか言いようがないのだが、そのハックリンの奮闘むなしく1対2でouluのポイントとなり延長戦へ。

延長戦では先にouluが1点先制。前半大勝、後半僅差負けというのは典型的なkouvolaの負けパターンと言えたが、裏の攻撃では何とかチャンスを作り、最後はエラー紛いのサヨナラヒットで大逆転勝ち。地元ファンと喜びを分かち合ったのであった。

この試合のMVPになぜか消火器が贈られた表彰のあとは恒例の出待ち(いつから恒例になったの?)を敢行。当然、お目当ては我らがユーホー・ハックリン選手だ。彼は我々のサインの求めに対して、何で日本人が俺に?と戸惑いながらも差し出した本日のメンバー表等にサインをしてくれ、最後にはにこやかに相方との2ショットまで応じてくれたのであった。まあ、にこやかだったのはハックリンよりも相方ではあったが(笑)。

出待ちのあと、激戦冷めやらぬグランドに乱入してダイヤモンドを一周する。土というか砂のグランドではあり結構固く、ここで選手たちがヘッドスライディングやダイビングキャッチなど果敢なプレイを見せてくれていたというのは本当に感慨深い思いだ。フィンランドという国で野球から派生したこのスポーツ、大変面白く、見に来て良かった。


おまけ〜スウェーデン編

スウェーデンでは野球の試合はなかったが、前述にように練習日程がホームページに載っていたので、練習見学に行く予定であった。練習場(=試合の球場)の最寄り駅を調べ、グーグルで大体の距離感をつかみ、ストックホルム地下鉄で出発。最寄駅に着いたまでは良かったが、駅前に地図はなく、球場の方角までは調べていなかった我々はヤマカンで歩き出すしかなく、結局球場は見つからず練習見学を断念したのであった。試合ならもう少し執念を見せていたかもしれないが、まあ止むを得ないところだろう。

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